「本の芸術~武井武雄の刊本作品を知って」
2014.3.17~4.5 不忍画廊 小展示室
出品作家:伊藤亜矢美、設楽知昭、鈴木敦子、つちやゆみ、釣谷幸輝、藤田夢香、橋場信夫、安元亮祐
特別出品:武井武雄刊本作品コレクション(土屋禮一氏所蔵)
これまで武井武雄については洒落た挿画や版画の作家という認識しかなかった。
2013年夏、初めて訪ねたイルフ童画館(長野県岡谷市にある武井武雄の美術館)で、美術作品として作ったという掌サイズの「本」を手に取ってみた時「こんな凄い芸術家がいたのか」と思う程、その小さな本(=刊本作品)は世界レヴェルの仕事だったのです。
長野県岡谷市出身の武井武雄(1894~1983)は『コドモノクニ』『キンダーブック』等で、子供の為に真剣に描いた絵画として「童画」をそのコトバとともに世に出した画家・版画家だった。また絵画や彫刻作品と同じように美術作品としての本=刊本作品(装幀、文章・書体、函など本の全部を総合した作品)を50年ほどの間に139冊も残した「本の芸術家」であった。
今展ではこの武井武雄の刊本作品のみをピックアップし、現代の9作家の本の新作を通じて武井芸術の素晴らしさ・凄さを知ってもらうという小企画です。また同時期に高島屋で開催される「生誕120年 武井武雄の世界展(3/26~4/6)」会場へと誘う、未公認PR企画でもあります。
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画面左側:武井武雄の刊本作品コーナー 右側:9作家による本の新作(一部)
特別出品:武井武雄刊本作品コレクション(土屋禮一氏所蔵)
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<伊藤亜矢美>
Q.武井武雄の世界を知って、どんな事に興味を持ちましたか?
こだわりを楽しんでいることです。 作品を見ていたら、全ての工程への強いこだわりが伝わってきて、うっとりしました。
その中でも刊本は、こだわりの集大成で「触りたい」「そばに置いておきたい」と思いました。
Q.(あなたにとって)「本」という表現形態は、どのようなものですか?
1つのテーマがどんな風に展開していくかと、 わくわくしながらページをめくる楽しさを味わえる表現だと思います。
今回は「くつろぐ」をテーマに、ページをめくるたびにプッと笑ったり、ホッとしてもらえたらいいなと思ってつくりました。
伊藤亜矢美『 くつろいでいます 』 2014年
和紙に木版凹凸版、コラージュ、手彩色、木材 (袋;布にシルクスクリーン) 180×150×25㎜ ED.3
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<設楽知昭>
Q.武井武雄の世界を知って、どんな事に興味を持ちましたか?
イルフ童画館にまだ行ったことがないので、是非、近いうちに訪れてみようと思っています。
Q.(あなたにとって)「本」という表現形態は、どのようなものですか?
日々の制作ノートが「本」というものになったとしたら、時間というもののない、順番というものを特に必要としない、どこからでも観ることのできる「本」となるのかもしれません。その意味で私のノートブックは「絵画」と言えるかもしれません。
設楽知昭『 Pinocchio 』2014年 インク、テンペラ、水彩、モレスキンノートブック 210×132×20mm
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<鈴木敦子>
Q.武井武雄の世界を知って、どんな事に興味を持ちましたか?
仕事としてではなく、楽しむ為だけに本を制作していた、という事。
Q.(あなたにとって)「本」という表現形態は、どのようなものですか?
手のひらの中で静かに会話のできる世界
鈴木敦子『 春の知らせ 』 2014年 木版画、手彩色 200×280×15㎜ ED3(1/8~3/8のみ、4/8~8/8は単品手彩色無し)
鈴木敦子『春の知らせ』2014 木版画、手彩色 ED3(1/8~3/8 ) 200×280×150㎜
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<つちやゆみ>
Q.武井武雄の世界を知って、どんな事に興味を持ちましたか?
伝統の職人技に武井武雄の感性が加わると、それはそれは美しいページが手のひらの上でゆっくりと展開してゆきます。
素材にぴったりの物語にも感心しきり、こだわりの大人の遊び心を多いに学べる本として何度も手に取りたくなります。
Q.(あなたにとって)「本」という表現形態は、どのようなものですか?
本の形態には、手触り、ページをめくる音、読み手にあった時の流れ、などが兼ね備えられていて、作り手として、ページをめくるリズムに乗り、考え方や美的表現を形にしていく高揚感があると思います。それに、後書きはもちろんのこと、表紙、見返し、扉、帯、などといった部分にも表現できる場所があり出来上がったときは達成感が得られます。満足感はというと自分自身の志次第ですから、納得がいくまで繰り返すしかありません。
つちや ゆみ
上から『PETA PETA COLLAGE』、『さばくのすなぼうや』、『賢治の言葉が私の中に今も住みついている』『じゅげむ』
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<釣谷 幸輝>
Q.武井武雄の世界を知って、どんな事に興味を持ちましたか?
「版画」と「本」の深い深い関わり。
Q.(あなたにとって)「本」という表現形態は、どのようなものですか?
本の形態には、手触り、ページをめくる音、読み手にあった時の流
れ、などが兼ね備えられていて、作り手として、ページをめくるリズムに乗り、考え方や美的表現を形にしていく高揚感があると思います。それに、後書きはもちろんのこと、表紙、見返し、扉、帯、などといった部分にも表現できる場所があり出来上がったときは達成感が得られます。満足感はというと自分自身の志次第ですから、納得がいくまで繰り返すしかありません。
「版画」にとってなくてはならない大切な友人。
上:『ゴオグル 』 2014年 木口木版画、雁皮紙、ハーネミューレ、布、その他 145 x 200 x 30 mm
下:『リボンちゃん』 2014年 木口木版画、雁皮紙、ハーネミューレ、布、その他 145 x 200 x 30 mm
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橋場 信夫 Nobuo Hashiba
Q.武井武雄の世界を知って、どんな事に興味を持ちましたか?
創作に対する飽くなき追求
Q.(あなたにとって)「本」という表現形態は、どのようなものですか?
秘められた快楽
橋場信夫 『 Les lettres d’amour Ⅰ』2014年 和紙にペン、インク 220×175×23㎜
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藤田 夢香 Yumeka Fujita
Q.武井武雄の世界を知って、どんな事に興味を持ちましたか?
武井武雄と聞くとどうしても神保町の古本屋さんでアルバイトしていた頃と結びつく。
もちろん、その頃に出会ったのだから当たり前ではあるけれど、なんだか暗闇の中で ぼうっと光が灯るような気分になる。
ページをめくると、どこか懐かしいような昔から 知っているような世界を示してくれる普遍性。
特に「刊本」は、「本」という「型」の中で、そのものの世界感を無限に広げてくれた。
目で見て楽しむだけでなく、物語りの世界、ページをめくるという動作、紙の質感、にほい…
本を開いている間だけは、たったひとりの為だけに存在しているという贅沢。
まさに、「芸術」というそのものの奥深さの扉を開いてくれたことにつきる。
今もなお、その扉の鍵がたくさん存在していることに感嘆しながら鍵探しのできる喜 びを噛みしめている。
Q.(あなたにとって)「本」という表現形態は、どのようなものですか?
おそろしいほど、無限の世界。
平面や立体の世界とまた違って、扉を開いて初めて中へ入り込めるという密やかさ やページをめくるという行為の中に手に取った人の呼吸が感じられるようで、制作し ている時から常に手にする人の事が離れない…不思議な感覚。
「シルクスクリーン」という商業印刷にも近い媒体を使って作品を創ってきたので、「本」や「印刷」という技術的な部分には常に意識下にあり、その奥深さや面白さに触れてきたがゆえ、怖くてなかなか手を出せない世界…でしょうか?。
ただ、今回は「本」や「物語」そのものがあっての「装幀」という世界とは違い「本」という概念そのものから捉える遊びをしてみました。
だれもが知っている「本」という型を借りるからこそできること。恥ずかしい気分になってしまいますが、武井武雄が果敢に試みたように「どんな面白いものができるか?」を考えて「視点をちょこっとかえる」ことができる「本の芸術」の扉のノブに手をかけようとしました…(まだ、開けていませんよ!)
1.「ヒラクトキヲマッテイル…言(コト)の葉a」 2014年
切り絵ー和紙、洋紙、トレーシングペーパー、キャンバス地、アクリル、活版 210×145×18㎜(A5サイズ)
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安元 亮祐 Ryosuke Yasumoto
Q.武井武雄の世界を知って、どんな事に興味を持ちましたか?
武井武雄氏の中にある創造力、好奇心、遊び心
すべて色彩の形になって芸術性を生み出したのだと思う。
Q.(あなたにとって)「本」という表現形態は、どのようなものですか?
触れてめくれる紙のオブジェ、
親しみと優しさが実感出来る楽しみがある。
安元亮祐『猫街Ⅰ』2014年 紙、アクリル、コラージュ 145×143×10㎜
安元亮祐『 猫街Ⅱ 』 2014年 紙、アクリル、コラージュ 170×110×10㎜
安元亮祐『 猫街Ⅲ 』 2014年 紙、アクリル、コラージュ 68×72×8㎜
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山中 現 Gen Yamanaka
Q.武井武雄の世界を知って、どんな事に興味を持ちましたか?
Q. (あなたにとって)「本」という表現形態は、どのようなものですか?
武井武雄のなつかしい絵、そしてそのすぐれた刊本の仕事を見て、
僕は僕なりの「本」をめざしたのだけれど、完成には至りませんでした。
それにしてもこの制作を通じて、
版画は、やはり手にとって見るもの、という思いを強くしました。
『 星の木 』 2014年 木版画 165×165×15mm ED.5
イルフ童画館ホームページ
イルフとは「古い」の反対言葉で「新しい」という意味。武井武雄が考案したコトバ。