セルフレビュー 2013‐③
1.「會田千夏展“portrait”」 2013.3.1~23
出品作品は全て「portraitシリーズ」、2009年頃から描き始めたものを可能限り展示しました。S100大作の2点は2011年札幌芸術の森美術館で展示した4点から2点セレクトして出品したものに修正・加筆を加え、違う作品のような仕上がりで展示、図録で見る限り芸術の森での展示作品より、今展の方がより作家の意図する方向に近づいているように思いましたが、作家自身はまだ描き足りずに完成したくはないようなのです。この、いつまでも完成していないように見える作品が逆に會田作品の魅力の一つであるかもしれません。會田さんによると・・・作品は子供であり、友人でもある・・・ので、いつも自分のそばにおいておきたいのでしょう。
これとはちょっと異なるかもしれませんが、同じ北海道出身の画家でも、長谷川リン次郎が愛猫を描いた『猫(1966)』(宮城県美術館蔵)や、神田日勝『馬(1970絶筆)』(神田日勝美術館蔵)など、未完成であるし画家自身も代表作になるとは思ってもみなかった作品が、それぞれの代表作の1点となり多くの美術ファンを感動させています。これらの作品の場合「未完である事の魅力」は、作家が不在となった今でも未完の作品のみが作家の次の一筆を待っているように、観客自身がその一筆に感情移入してしまうのかもしれません。
今回の會田千夏展はこれらの名作2点のように作品自体が未完成という訳ではありませんが、出品作品全体で作家が目指す方向への途中(プロセス)というようにも思え、次へと繋がるための為に、どうしても必要且つ重要な展示だったのでしょう。
2.「藤田夢香展 portrait―向こう側のあなた」 2013.3.1~23
今回は會田展との同時開催という形式にしましたが二人展ではなく、二つの個展を同時期に行ういう当ギャラリーでも初めての試みです。
昨年(2012年)9月、移転記念展で意気投合した二人ですが素材・手法・作家の性質も異なります。しかしその作品に流れる時間というか空気感というか極めて近いものを感じ、会期3ヶ月前に藤田さんに急遽viewing roomでの個展を依頼し、しかも大変面白い試みを行って頂きました。小roomの半分を暗幕で覆い外光を遮断、観客一人ずつ暗幕の中に入ってLEDによる光の作品を見ながら、向こう側のあなた(或いは自分自身)を感じてもらうという展示です。
二つの個展のサブタイトルには同様に「portrait」が付けられました。
二つの個展でありながらその境界線があいまいでグラデーションのように溶け込んでいくような企画展、いずれまたやってみたいしまだまだ可能性があるように思います。準備期間がほとんどなかったにも関わらず、対応し出来る限りの挑戦をして頂いた藤田夢香さんには本当に感謝しています。
2013年5月 荒井裕史