2013年1月と2月の企画は、不忍画廊として欠かせない2作家、斎藤真一と池田満寿夫から始めた。
ともに1960年代作品を中心に展示、新しいスペースでどう見えるのか、現在でも鮮度は失われていないか、再確認したいと思った。
「池田満寿夫“1966”」 2013.2.4‐2.23
ヴェネツィアビエンナーレ展で《版画部門大賞》を受賞した “1966年” をピックアップした企画展。
受賞作を中心に1960～70年初まで出品、各壁面ごとの展示構成。
【1. ヴェネツィアビエンナーレ展大賞受賞作】
正面～中央壁面にはヴェネチィアビエンナーレ展大賞受賞作や代表作を展示した。
これらの作品は日常風景を描きながら、抜群の色彩感覚／類まれな線描／軽やかなポエジー・ポップ・ファッションセンスを巧みに取り込み、世界水準に高めている。池田の代表作というだけでなく、戦後日本美術の代表作であり、国内主要美術館所蔵だけでなく、1965年にはニューヨーク近代美術館で個展・収蔵された。
【2．デビュー作と堀内康司】
会場奥の壁面コーナーには、無名だった池田満寿夫が一躍、美術界に知られる事となった3部作「女」、「女の肖像」、「女・動物たち」（1960年）を展示した。この3点はクレー研究で知られるヴィルグローマン博士が強力に支持し第2回東京国際版画ビエンナーレ展で《文部大臣賞》を受賞、翌1961年、初の銅版画個展（不忍画廊＊当時上野）にも出品された。展示作品は池田の才能を最初に見抜いた画家・堀内康司氏旧蔵作品である。参照→コラム
【3． 女性に大人気！】
ＤＭに使用した「ヴォーグから来た女（下絵）」は、コーナー１と２の間の柱に1点のみで展示。この作品の画像が読売新聞・展覧会紹介欄に紹介されると、「この作品だけを見に来た」という来客が日に日に増え、その９割が女性であり皆異口同音に「おしゃれな作品ですね」、これはファッション（＝商業芸術）感覚を巧みに取り入れた池田芸術の本質をつく感想だと思う。女性雑誌のモデルや、流行の靴、服の文様などを作品の中にコラージュし、手描きの線描を加えたセンスは、現在みてもお洒落な作品だと感じたのだろう。
【4．アメリカ時代と資料の展示】
意外だったのは、コーナー１の向かい壁に展示したアメリカ時代の5点が、60年代の代表作を知らない若い来客に一番好評だった事。「池田は60年代がダントツに良い」と決めつけるは、美術業者のあさはかさかもしれない。
この壁面下に大きな展示台を置き、作品が表紙となった画集、著書、貴重な当時の案内状などを並べ、初めて池田芸術に触れた方にもゆっくりと座って自由に閲覧できるようにした。これは私自身が本から池田芸術に近付いていった事による。
【わかりやすく伝える・会場にて】
入口右壁には画廊と池田満寿夫の関連を一目で伝えられるよう画像資料を貼付した。実はこの資料制作・展示作業に１週間もかかっている。
入口左壁にはミニ・エッチング作品を即断可能な価格で展示、若いコレクターや若い版画家たちに何点も購入頂いた。かつて高額だった作品が安価になると多くのコレクター達は憂い顔をするが、当時の高額価格を知らない新たなコレクターを作っていくには、まず購入可能額に設定するのは当然である。
【詳しく伝える・WEB企画】
WEB企画として、池田満寿夫美術館・中尾美穂氏にテキストを依頼、会期中3回にわたり公開した。時代の寵児としてもてはやされた当時の心境・周辺の空気を、遺された膨大な資料から抜粋、いつでも閲覧できるようWEB企画（アーカイヴ資料）として公開していますので是非、閲覧頂きたい。
中尾美穂（池田満寿夫美術館学芸員）
・「池田満寿夫と版画と1960年代」 ＜１＞ ＜２＞ ＜３＞
・「池田満寿夫と70年代―マルチプルな活動」
移転後初めての池田満寿夫展は、半数以上が未知の来客、30～40代の若い方々や作家達も多かった事が何よりであった。
2013年4月 荒井裕史
追：2013/4/5～5/12 山形美術館にて「池田満寿夫展 移りゆく色と形」開催。