「山田純嗣×小金沢智 往復書簡<絵画をめぐって>」001

山田純嗣 様

お久しぶりです、小金沢です。お元気でいらっしゃいますか?
先日不忍画廊ディレクターの荒井裕史さんから、今回の山田さんの個展「絵画をめぐって 死んでいるのか、生きているのか」に合わせ、メールによる往復書簡のご提案がありました。山田さんの作品について対話を重ねていき、その内容を逐次ウェブにアップしていく。約ひと月の会期でどれだけの言葉の往復ができるかわかりませんが、山田さんとはかねてからお話ししてみたいと思っていましたので、このような機会をいただけたことをとても嬉しく思います。

というのは、僕は山田さんの作品を、2008年の個展「DEEP FOREST-既視感の森-」(日本橋髙島屋美術画廊X)で初めて拝見したのち、その後2009年の個展「絵画をめぐって-The Pure Land-」(中京大学C・スクエア)、「山田純嗣 展」(不忍画廊)、2011年の「山田純嗣 展 絵画をめぐって -À Mon Seul Désir-」(日本橋髙島屋美術画廊X)など、機会のあるたびに拝見しているのですが、いまだ山田さんと直接お会いする機会を得られていないのですね。昨年の日本橋髙島屋美術画廊Xの個展ではリーフレットにテキストを書かせていただきましたが、お会いできずじまいでした。お互いツイッターでフォローし合っていて、テキストの依頼もツイッターのDMを通してだったように記憶しています。

さて、そのときのことですが、実は僕はとても驚きました。山田さんが依頼して下さったのは、中京大学C・スクエアでの個展のレビュー( http://www.kalons.net/index.php?option=com_content&view=article&id=467&catid=1&lang=ja )をカロンズネットに書いたのを読んでくださってだと思いますが、あのレビューを僕は今でも、うまく書くことができなかったという苦い経験とともに思い出すからです。奇しくもその個展が、その後継続されることになる〈絵画をめぐって〉と題された初めての個展であったわけですが、とにかく僕は山田さんの作品について書くことの難しさをそのとき強く感じました。今でも読み返すと、どう書いていいかわからない、という戸惑いがそこかしこから漂ってくるようです。

もっとも、今では、その逡巡もあながち見当違いなものではなかったのではないか、と感じています。なぜなら、その逡巡も含められたある種の〈わからなさ〉こそ、山田さんの作品の非常に大事な要素なのではないか、と思うからです。ここで僕が言う〈わからなさ〉について、思いつく理由を2点挙げておきたいと思います。

1点目は、山田さんの作品が石膏や樹脂などによって立体を作ることからはじまり、それらを写真に撮り、現像した写真をもとにエッチングをほどこす、という複雑な工程を経て作られているということ。単純化すれば立体から平面へと言い換えることができますが、その立体によるインスタレーションも展示されることにより、鑑賞者の視線は立体と平面を行き来することになります。そして、僕が戸惑い、混乱さえするのはこのときです。立体と平面との、イメージとスケールにおける同一性と差異性。そのズレによって、次第に僕はどちらも存在が不確かであるように見えてきて、引き裂かれているような思いを感じて立ち尽くしてしまいます。作品は確かにどちらもここにあるけれども、「本当にここに存在しているのだろうか?」とすら思えてきてしまう。

2点目は、山田さんの平面作品が版画であって複数枚存在しえる、ということで、これが前述の戸惑いと混乱に拍車をかけます。1点目は、立体と平面とのズレによる存在の不確かさでしたが、2点目は対照的に、同じものが複数点存在しえる、ということの不可解さです。とはいえ、これは山田さんの作品にかぎったことではありません。版画作品であれば、あるいはこの大量生産大量消費時代の現代であれば、美術にかぎらず同じものが複数点存在することなどまったく不思議なことではないからです。にもかかわらず、それが気になってしまう。そして、そもそも同じものが複数点存在するということに恐怖を感じてしまう。これは、<絵画をめぐって>のシリーズにおいて山田さんがモチーフにしている作品群が、本来的にはこの世に1点しか存在しないということにも起因しているのかもしれません。

相変わらず上手に説明ができず苦笑いするばかりですが、今回の個展の際して気になっている点について、最後に一つだけ。タイトルに、「死んでいるのか、生きているのか」とあります。「死んでいる」と進行形であるのが気になるところですが、僕はこれを、「死んで」いても、「生きて」いても、どちらにしても存在している、という風に読みました。それは言うならば、まるで幽霊のような。僕は山田さんの作品に(絵画の)幽霊的な要素を見ていて、それが戸惑いや混乱や怖れを感じさせるのかもしれません。

とりとめがない、予想どおりうまく言葉にできない第一信になってしまいました。見当違いなことを申し上げているような気がしますが、5日から始まる山田さんの個展を拝見して、改めて考えてみたいと思います。それでは、これからしばらくのお付き合い、よろしくお願いします。

 

小金沢智