設楽知昭 「鏡」
1986 oil,plaster 350×260mm
石膏刷りといって、版面に溶かした石膏を流し込み硬化後に版を外すと。石膏が硬化するときの陰圧でインクが写し取られるのです。この作品は、鏡に絵具で描いた後、石膏刷りをしたものです。
鏡には描く私が映っています。鏡に向かい油性絵具を筆や指で描きます。鏡に映る私を消し、あるいは閉じ込めるかのようです。その絵具の層が今度は石膏に移し替えられます。
鏡に映る私は左右反対の鏡像であって、私そのものではありません。絵具にその鏡像が取り込まれたとしても、私のことではないでしょう。石膏の表面に移し替えられ、それが鏡のこちら側のことになったとして、見る方は鏡側になっていて──とにかく、鏡というものはややこしいけれど、そういう鏡によって私たちは自身の姿を確認するしかしょうがないのです。
私たちは自身の姿を直接見ることはできない──そういう宿命にあって、ひょっとすると絵画は自身を直接見る方法なのではないかとも妄想するのです。