荒井一章: 図録「MASUO EROTICA」より

 池田満寿夫が逝って5年が過ぎた。池田とは郷里長野の高校以来50年の交友関係を続けてきた。
彼の没後、年に一度、画廊コレクションの一部をとり出しては、池田満寿夫を偲ぶ展覧会をひらいてきた。今回は池田の生涯を通じてのテーマである“マスオ・エロチシズム”を小冊子にまとめ取り上げてみようと思う。
 奔放で多彩な池田作品は、版画、タブロー、ドローイング、水彩、立体、陶器など多様な表現形式でつくられている。今回のは、それらに写真を加えたものである。
 池田のエロスの芽は幼児期に始まる。満州(現在の中国)で生まれた彼の環境は表現でいえば、フーゾク業まがいのけばけばしい場面も日常生活の中に見聞きしていた。当時の国の政策であった大陸進出の旗印のもと、日本各地から金もうけの出稼ぎ頭が活気づいていた。彼の一家もその中にいた。しかし、広大な天地の中の猥雑さは、明らかに狭くてじめじめした日本とは違っている。池田満寿夫の一生をかけてエロス表現の根っこは大陸的な猥雑さに培われたものであると私は思っている。
 池田のエロチックな作品をみると、過去の日本の暗い陰湿な表現ではない。いうなれば大陸的な青空の下のすばらしい、生きいきとした<トイレの落書き>群像であることに気付く。
 すぐれた色彩感覚と詩人の感性をもってエロスの表現に立ち向かったユーモア溢れる“マスオ・エロチシズム”を堪能しようではないか。

荒井一章
(図録「MASUO EROTICA」原稿より抜粋)