門坂流展“Engraving” 展示について。2013.3.30‐4.13
今回の個展は、門坂流版画制作200点を記念して作家自薦の33点のエングレーヴィング作品による小回顧展です。あまり広くないスペースの中でも約30年の仕事をじっくり見て頂けるように展示を考えました。
入ってすぐの右壁にはDMに使用した「夏雲」1987と「急流」1990を展示。一見抽象作品に見えるこの2点は、目に見えない空気や常に動いている水の流れの表現を真骨頂とする最も門坂さんらしい作品、入ってすぐに見て頂き、最後にもう一度見てもらいたいと思いこの配置にしました。今展でも特別記憶に留めて欲しい<小さな秀作>だと思います。
上記作品の後を振り返ると、「渦潮」1988と「折れた樹」1991のモノクロ&カラー摺り各2点づつの併設展示。天井照明が一番近く最も明るい。ブルー系のグラデーションによる門坂流の<1版多色摺り>の美しさと<黒1色>の美しさを比較してもらいたい。
今展では「新作」から「旧作」へ遡るような導線としたが、2006年以降の新・近作は少し離れた距離で見てもらえるように展示した。近作は壁面に収まりきらないサイズが多く、数点を少々高い展示台に寝かせるように展示、「山や川を描いた風景は、こんなに緻密な線描の集積で出来ていたのですか!」と、来客にはかえって評判が良く功を奏した。
左から「千年桜」2009、「御所桜」2012、「満開の桜」2006。
今展は、桜の開花時期に合わせた個展だったが桜の開花が異常に早く、葉桜まじりのオープニング、ギリギリでした。。。
門坂さんの桜(その他の花も)の作品を見るときのポイント、 「僕は花弁は描かないんだよね。」・・・花の周りの背景や空気の流線を描くことにより、白く残った(つまり紙の白の)部分が、描いていないのに最も桜の花弁らしくなっている。普通の作家がこのテクニックを真似をしてもそれは、“手法の真似”であるというだけの事、わざとらしい感じになってしまうだろう。
門坂さんのは手法が先なのではなく“そのように見えるからこの手法になった”というだけの事であろう。
「満開の桜」2006の銅板原版と道具の展示。
エングレーヴィングはエッチングとは違い、銅板をいっさい腐食せずに直接ビュランで彫っていく手法。
門坂さんはビュランを手で動かしながら彫るのではなく、刃先を銅板に当て版を回しながら掘り進める手法を用いている。「言うは易し行うは難し」である。
1985年の第1作から難なく出来たのはエングレーヴァーになるための天賦の才能しか言いようがない。
奥の突当り壁面は、集中してじっくりと見られる場所。門坂流近年の名作「オンディーヌ」黒・紫・青の3点を展示。
今個展と合わせ、同時期に3つの異なる会場で展示したこの「オンディーヌ」は、それぞれ異なる額装での展示を行った。
1.個展「Engraving」会場:不忍画廊
2.「町田ゆかりの作家展」会場:町田市立国際版画美術館
3.「ART COLERS~ゆるりゆられり」会場:パークホテル東京
最後の壁面は最初期(1985~88)のエングレーヴィング作品。植物や花をモティーフに、近作とは正反対に間近でじっくり見たい作品群である。
特に「昼顔」1985 について門坂さんは、「この作品が出来たことで作家としてやっていける自信がついた」と仰っていました。
植物などの細密な表現、形のない水の流れの表現、画面の中に自然界の有形無形の両方をエングレーヴィング手法で思い通りに出来た初めての作品となったそうです。
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◎普及版 1,050円
◎特別版(A)10,500円 *額付・銅版画「蔓草」付(200点目のエングレーヴィング作品)
◎特別版(B)10,500円 *額付・銅版画「枯葉」付(201点目のエングレーヴィング作品)